【2021年版】東南アジアFemtech(フェムテック)マーケットマップ

世界の人口の少なくとも半分を占めている女性たちは、月経から閉経にいたるまで、生物学的な変化を経験する旅をしていると言えるでしょう。

「Femtech(フェムテック)」という言葉は、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語として2013年に誕生しました。その後、女性の健康課題に応えるテクノロジー企業・業界を指す言葉に成長しました。

PitchBookによると、フェムテック業界は2019年、世界で8億2,060万ドルの収益を上げ、5億9,200万ドルのベンチャーキャピタル投資を受けました。

2019年から2020年にかけてfermata Inc.では、フェムテック分野に参入した企業を網羅するマーケットマップを発表しました。しかし、これらのうちほとんどは北米とヨーロッパの企業で占められており、他の地域の企業はごくわずかに留まっています。

▼目次

  • 2019・2020年のFemtechマーケットマップ
  • 2021年東南アジアFemtechマーケットマップ
  • カテゴリー別 東南アジアのフェムテック企業
  • カテゴリー別 シンガポールのフェムテック企業
  • 東南アジアのフェムテックをリードするシンガポール事情
  • カンボジア、ビルマ、ラオスのフェムテック事情
  • 東南アジアのフェムテックは遅れているのか?
  • 東南アジアにおけるフェムテックの課題とこれから

 

■2019・2020年のFemtechマーケットマップ

 
 
 
 
 
 
 
 
 

fermata Singaporeは、日本最大のフェムテックマーケットプレイスfermata Inc.の初の海外支店で、2020年10月にシンガポールでオンラインストアをスタートしました。フェムテック製品やサービスを通じて女性が自分の身体をよく知り、フェムテックをツールとして仕事やプライベートにおける希望や目標を達成し、日々のワクワクが増えていくこと、これが私たちのミッションです。

■2021年東南アジアFemtechマーケットマップ


2021年第1四半期の東南アジアにおけるFemtechマーケットマップはこちらです。  

Southeast Asia femtech marketmap 2021

<カテゴリー内訳>

セクシャルウェルネス 

性行為において女性の安全性を保ち、さらに女性がセクシャルウェルネス(性の健康)を得るための製品を提供するスタートアップ群です。例えばシンガポールのEase Healthcareは、低用量ピルや緊急避妊薬などのデリケートな医薬品を玄関先まで届けるサービスを提供し、婦人科に行かなくとも女性がオンラインでアクセスできるようにしています。

他にもシンガポールではMaison MikaGood Vibesのような女性用プレジャーグッズのECサイトや、セクシャルウェルネス分野におけるイノベーションやトレンド、ビジネスについて発信するThe DellaHQのようなプラットフォームがあります。

不妊・妊よう性 

体外受精や卵子凍結など、妊娠の可能性を高めるサービスを提供したり、女性が自分の妊よう性における健康状況を主体的に把握するのに役立つ製品を提供するスタートアップ群です。

例えば、Lumirousはマレーシアでオンラインの不妊治療コーチングを提供し、タイのYesmomやシンガポールのFigは自身の妊よう性を家に居ながらチェックできるホルモン検査キットを提供しています。

月経

女性が生理中でも快適な生活を送ることのできる製品を提供するスタートアップ群です。特に、女性が既存の生理用品に抱くことの多い3つの懸念点(快適さ・健康上の副作用・プラスチック原材料による環境問題)の改善に焦点を当てています。

例えばタイのIra Conceptはオーガニックの植物性ナプキンをサブスクリプションモデルで販売しています。Cocmauはベトナムで再利用可能な月経カップを提供しています。

更年期・閉経

気分の落ち込み、不眠、イライラ―80%の女性がこのような更年期の症状を少なくとも一つは抱えていると言われています。シンガポールのElocareは、中年期の女性が自身の身体の症状をモニタリングし、治療や管理に役立てるためのウェアラブルデバイスを提供しています。

更年期ケアはまだまだ未開拓の領域ではありますが、更年期に差し掛かった女性の購買力はかつてないほど高まっているため、インパクトのある市場となることが予想されています。

妊娠・産後ケア 

産褥用の吸水性ショーツや、赤ちゃんの心拍数をモニターできるウェアラブル製品など、妊娠中および産後のケア製品を提供するスタートアップ群です。

例えば、シンガポールでは妊娠期の母子の健康を遠隔でモニタリングするプラットフォームを提供するBiorithmという企業があります。ただ、このカテゴリに属する企業も更年期市場と同様にまだまだ少ない状況です。

女性の健康全般

月経、妊娠、更年期などこれまでに挙げた一つのカテゴリに特化せず、ストレスや不安、孤独などすべてのカテゴリにあてはまる心身の健康問題を包括的にサポートするスタートアップ群です。このカテゴリにはプレジャー・トイのようにストレスを和らげる製品や、PMS(月経前症候群)といった症状を治療するものが挙げられます。

東南アジアではこの分野はまだあまり重視されていないものの、シンガポールのZazazuといった女性専用のオンラインコミュニティを提供する企業もあり、徐々に注目が集まりつつあります。

メンテック

フェムテック製品やサービスは、女性のために設計されたものです。それは元来イノベーションがターゲットにするのは基本的に男性であり、女性はオプションに過ぎなかったというひずみを解消するためでした。しかし、男性においても勃起不全やアンドロポーズ(男性更年期障害)といった、生殖分野で男性特有の問題があります。

そうした問題に対処する東南アジアの企業としては、シンガポールのNoahAndSonsが挙げられます。両社は男性向けの遠隔医療を提供し、オンラインでの相談やプライバシーに配慮した薬の配達、継続的なケアを行っています。

■東南アジアのフェムテック企業(カテゴリー別

Southeast asia marketmap 2021

 

2021年の東南アジアのフェムテック企業は41社で、2020年の世界のフェムテック企業318社と比較すると少ない数にとどまっています。24社の企業を擁するシンガポールがリードしており、6社のタイがそれに続きます。

シンガポールはアセアン地域の中心に位置し、世界でも有数のテクノロジーセンターとして地位を確立しているため、この結果は驚くべきことではありません。シンガポールの企業は人材や資本、政府からの支援といったリソースを得やすく、消費者の購買力の高さからも恩恵を受けることができます。

■シンガポールのフェムテック企業(カテゴリー別)

femtech marketmap singapore 2021

 

新型コロナウイルスの影響で、シンガポールではビジネスを立ち上げやすい状況になりました。2020年12月、シンガポール政府はスタートアップ部門を強化するために1億5000万シンガポールドルを拠出することを約束したのです。

こうした動きを背景にシンガポールでは昨年、オンライン処方箋やリモートヘルスケアサービスを中心としたフェムテックスタートアップが誕生しました。

■東南アジアのフェムテックをリードするシンガポール事情 

シンガポールの医療制度は、香港に続く世界第二位に何年も前からランクインしています。その効率性と平均寿命、医療費の観点から「奇跡の医療システム」とも呼ばれています。

 

しかし洗練された医療システムが存在する一方で、人々はタブーや偏見のないサービスを求めており、その要望に応えるべくシンガポールでは健康関連のスタートアップが続々と登場しています。  特にセクシャルウェルネスの分野では、昨年来、自宅で性感染症を検査するキットや避妊薬を提供するスタートアップが増えており、従来よりプライバシーを重視したサービスが付加価値となっています。

 

「セクシャルウエルネス分野でヘルスサービスを提供するDearDocEaseFerne Healthなどの企業は、従来の医療制度では提供できなかった『心理的に安全で偏見のないサービス』を保証しています。女性の性的健康には、文化的、宗教的、家族的価値観が強く結びついており、それは時に診察の場で女性が恥ずかしいと感じたり、責められているように感じることにつながっていました。しかし、新しいヘルスケア企業の登場により、女性は自身の健康を主体的に管理できるようになります」とfermata SingaporeのPRマネージャー・Francesca Gearyは語ります。

 

シンガポールで成長している他のフェムテック分野は、生理や不妊分野です。シンガポールは出生率が最も低い国の一つです。また、世界で最も急速に高齢化が進んでいる国の一つであるにもかかわらず、更年期ケアに関するムーブメントは乏しいままです(SIM Global Education, 2019)。

 

fermata Inc.のグローバルビジネスマネージャー・Lia Camargoは下記のように述べています。「女性の更年期症状の研究や、50歳を超えてからの身体変化へのアプローチに関する研究は世界的に見ても非常に少ないです。この分野はまだまだイノベーションと資金が不足しており、東南アジアのスタートアップが世界にインパクトを与えることができる分野とも言えます。」

■カンボジア・ビルマ・ラオスのフェムテック事情

現状では残念ながら、カンボジア・ビルマ・ラオスではフェムテックのスタートアップ企業は存在しません。発展途上国では先進国とは異なり、基本的な医療の保証といった公衆衛生上の問題にまず重点を置かなければならないためです。

これらの国ではGrenen Ladyのような非営利団体や社会起業の活動が中心で、月経衛生が十分に行き渡るように大きな役割を果たしています。

■東南アジアのフェムテックは遅れているのか?

フェムテック企業が存在するのは、女性が必要なケアを適切に受けられていない現状があるからです。その大きな理由は、世界中でいまだに存在する「医療におけるジェンダーバイアス」です。いくつかの研究では、女性は誤診や、不十分で否定的な診療を受ける確率が高いことを示唆しており、それによる実害も明らかになっています。

 

例えば女性は手術後に頻繁に激しい痛みを訴えても、男性より少ない量の痛み止めしか処方されません。さらに、男性の勃起不全に関する研究は、女性の性交痛の研究より5倍も多いという事実もあります。

 

fermataの創設者である杉本亜美奈氏は、公衆衛生学博士として次のような見解を述べています。

 

「西洋と東洋の国々を比較し、『どうあるべきか』という議論を行うと、西洋中心の視点に偏ってしまうことがよく見られます。文化や宗教、ライフスタイルがまったく異なる地域を比較するのではなく、地域に密着したアプローチで、それぞれの国や国民が何を必要としているかを検討してほしいと思います。

つまり、欧米に比べて東南アジアではフェムテックの普及が遅れているかどうかという議論は本質ではなく、国民のニーズや地域の状況に応じて、どの国でどのようなフェムテック製品に力を入れるかが議論されるべきなのです。」

1.性的健康をめぐる文化的・社会的タブー 

女性の性的健康や不妊の問題をオープンに議論することは、アジアではいまだに大きなタブーとなっています。その理由は、性教育の内容に偏りがあり、若者が現在および将来において、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を持つことへの理解が進んでいないからだと考えられます。 東南アジアの多くの国では性教育が義務化されておらず、性教育を実施するのか、その場合生殖や避妊についてどう教えるかは各学校の裁量に委ねられています。

 

性教育を行っている国でも、多くの学校では負の影響を強調する観点から性教育を行い、正の観点を取り上げたり、生徒の批判的思考力を促し議論を深めることはありません。実際に禁欲主義教育の国々では、望まない妊娠をする率が高くなっており、ベトナムの人工妊娠中絶率はアジアでは最も高く世界でも5本の指に入っています。

 

シンガポールでは、教育省が最近になって性教育のカリキュラムを更新し、禁欲や10代の妊娠といった内容にとどまらず、より包括的なものになりました。性的同意やその適用方法、オンラインメディアと性の影響などを教えています。

 

ユニセフのタイにおける包括的性教育のレビューによると、タイの教育機関では10代の妊娠や性感染症予防が強調される一方で、性の権利、性の発達、性的いやがらせについてはあまり教えられていないとのことです。 こうした傾向は他の東南アジア諸国でも見られ、若年層が自分の性について正しく理解していなかったり、性の健康について安全で効果的な判断を下す分析能力が備わっていないことにつながっています。

2. 教育の欠如による間違った思い込みや誤解 

昔ながらの思い込みや迷信は時として、女性が自分の体について学び、より良いケアを受ける妨げとなります。例えばいくつかのアジアの文化では、結婚前の禁欲が重視されています。そのため未婚の女性が処女であることを証明するために、膣内に何かを挿入することは子宮を傷つけるとみなされ、回避されます。処女性はひとつの概念であり、その重要性は人によって異なるとはいえ、タンポンなど膣へ挿入する製品は多くの場合、社会的に否定されがちです。 

 

Singapore tampon taboo survey

実際にベトナムやタイなどのアジア諸国でタンポンを市場で手に入れることは非常に困難な一方、アメリカなどでは女性人口の70%がタンポンを常用しています。

 

fermata のストアでも、膣内に挿入することへの抵抗感が強いことを顧客より感じます。 fermataが実施したオンラインアンケートにおいて、177名の女性回答者に「タンポンを挿入することは平気ですか」と質問したところ、74%が「いいえ」と回答しました。この結果は生理に関する文化的なタブーと一致しています。今後、月経衛生が性教育の一環として取り入れられ、思い込みが取り除かれれば、革新的で多様な製品を人々がより受け入れやすくなると私たちは信じています。

3. デリケートゾーンへのタブーが、フェムテックの発展を阻害している 

女性が基本的な生殖の仕組みを知らない場合、たとえ革新的な衛生ケア商品が登場しても受け入れられないでしょう。膣まわりのケアに関する知識がなく、オープンに語られることがない場合、少女たちはデリケートゾーンの健康に不安を感じたり、間違った思い込みを持つことになります。こうしたことが、膣内に挿入するタンポンや月経カップのような製品への抵抗感につながります。

 

さらに、ハイテクなプレジャー・トイや、膣への挿入が必要な排卵日予測器具といったフェムテック製品は、利用者が生殖の仕組みを理解し、製品を試してみる偏見のないマインドを持っていないと利用に至るのは難しいものです。

■東南アジアにおけるフェムテックの課題とこれから

アセアン地域のGDPは数年前から急上昇しており、この地域の経済成長は明らかです。そしていまや世界中で多くのフェムテック製品が利用可能で、すべての女性がどの製品を選ぶかを決める自由があるはずです。

 

しかし、東南アジアではフェムテック製品がまだ限られていること(「マーケットマップ」参照)や、女性の身体へのタブーが根付いていることが、この地域の女性たちが日常生活を改善する解決策を知る上での障害になっています。

 

さらに、新型コロナウイルスのような世界的危機による経済の低迷は、男性よりも女性に深刻な影響を与えています。男女平等の実現が遠のいたり、今まで見過ごされてきた女性の健康課題への取り組みが遅延することが懸念されます。

 

世界経済フォーラムの「2021 Global Gender Gap Report」によると、子どもを持つ女性は、特に学校の閉鎖や在宅介護サービスの利用制限などにより、仕事と家事両方の時間が長くなり、ストレス、仕事がなくなる不安、ワークライフバランスの難しさに苦しんでいます。

 

そうした現状に対する国レベルの施策として、ジェンダーポジティブ(性の偏見や不平等を正す考え方)な政策を進める国では、女性の雇用改善に取り組んでいます。

 

一方個人レベルでできることとしては、女性およびパートナー各々がレジリエンス(困難から立ち直る力)を高める方法を学び、セルフケアの習慣を身につけることです。心身の健康の向上に効果的なツールやブランドに目を向けることで、自分自身を回復させることができるでしょう。

 

fermataは日本とシンガポールを皮切りに、女性が自分の身体を知り、元気になるようなフェムテック製品をアジアに広めようと活動しています。日本では2019年より活動を開始し、フェムテック業界はこの一年で大きく成長し、発展しました。fermataのグローバルビジネスマネージャー・Lia Camargoは下記のように述べています。

「私たちfermataは、アジアでより多くの女性が自分の健康に対して主導権を持ち、新しい選択肢を持ってほしいと考えています。東南アジアは最も急速な経済成長を遂げている地域の一つです。だからこそ、革新的なフェムテックの発展と、女性の身体に対する偏見の解消が急速に進むことを期待しています。」

<マーケットマップの選考基準>

・未上場

・2000年以降に設立 

・フェルマータ独自の採点表

<免責事項>

本記事に記載されている調査結果、解釈、結論は、必ずしもfermata Asia Pte.の見解を示すものではありません。 本マーケットマップは、fermata SingaporeのViracha PoolvaralukとFrancesca Gearyが公開情報から収集したデータをもとに作成したものです。fermata Asia Pte.は、データが本マーケットマップに正確に反映されるようあらゆる手段を講じ、データを 「あるがまま、入手可能な状態で 」提供しています。

ご質問やコラボレーションについては、Singapore@hellofermata.com までご連絡ください。

 

日本語訳/平 理沙子

(日本語ページ監修/ 丹野直美 fermata Singapore)